皆さんは「コウモリダコ」という深海生物をご存じですか?
コウモリダコはその見た目から地獄の吸血イカという意味の学名がつけられています。
なんだかとても恐ろしい生物のように感じますが、実は大人しい性格をしており「吸血イカ」と呼ばれていますが血は吸いません。
イカとタコが分かれる前の原始的な生物で「生きた化石」としても知られています。
そんなコウモリダコについて、詳しくご紹介します。
コウモリダコの生態と特徴について
コウモリダコは軟体動物門頭足鋼(なんたいどうぶつもんとうそくこう)コウモリダコ目コウモリダコ科に属している深海生物です。
生息地は世界各地のあたたかい海で、生息水深は水深400~1000mです。
体長は13~30㎝で、ゼラチン状の柔らかい体をしています。

オスはメスよりもやや小さめです。
子どもの頃は主に水を吐いた時に発生するジェット推進によって水中を移動しますが、大人になると体の側面にある耳のようなフィンを効率よく動かして移動します。
これまで体の2倍の距離を1秒で泳ぐ様子が観察されており、意外と速く泳ぐことが分りました。
8本の腕には吸盤とトゲのような触毛が並び、腕の間は膜でつながっていてスカートのようになっています。
危険を察知するとこのスカートを裏返して体を包み込み、イガイガボールのような姿になって身を守るそうです。

コウモリダコはその見た目からとても恐ろしい肉食生物だと考えられてきましたが、実はとてもおとなしく、エサはマリンスノーであることが分かっています。

マリンスノーとは、プランクトンの死骸や排泄物、またはそれらが分解されたものダコ。
海中の映像や写真を撮影すると白い粒子が写ると思うダコ。
上の写真にも写っている白い粒子、これがマリンスノーダコ!
マリンスノーは海雪とも呼ばれていて、深海に降り注ぐ雪のように見えるダコ。
コウモリダコは「酸素極小層」と呼ばれる、深海の中でも酸素の量が最も少ない場所に住んでいます。
この「酸素極小層」は普通の生物は生きられない環境だと言われており、深海の中でも特に過酷な場所です。
ではなぜ、コウモリダコは「酸素極小層」で生きていくことができるのでしょう?
コウモリダコは深海に生息している頭足類の中で、最も遅い代謝速度であることが分かっています。
さらに、ヘモシアニンによって少ない酸素を効率的に体内に輸送できる能力があることも分かっており、このようなことからコウモリダコは酸素の少ない場所でも生きていけるのだそうです。
また、コウモリダコの体にはアンモニアが含まれており、アンモニア系の浮力により少ない運動量でも酸素の少ない中層で浮いていられるのです。
それだけではありません!
コウモリダコは精巧な平衡器官(地球の重力に対応して平衡感覚をつかさどる器官)を持っていることも知られています。

ちなみに、人間の平衡器官は耳の中(内耳)にあるんだヨ。知ってたカナ?
コウモリダコの眼の色は、画像では青く見えるものが多いですが、実は赤色です。
この眼は外径が2.5㎝もあり、身体の割りにはとても大きな眼を持っています。
コウモリダコの大きな眼は非常に複雑なつくりになっており、真っ暗な深海の中で小さな発光も見逃しません。
ところで皆さん、お気づきでしょうか?
コウモリダコは和名では「コウモリダコ」と言われていますが、英名では「吸血鬼イカ(Vampire squid)」と呼ばれていますよね。

言われてみれば、確かにそうだネ。
コウモリダコは「イカ」と「タコ」どちらに分類される生き物なのでしょう?
コウモリダコが最初に発見されたのは1903年、発見当初は8本の腕があることからタコの一種と考えられていました。
ですが、その後の観察で腕のわきにある目立たない袋の中に2つの細い腕が入っているのを発見!
「これは…!腕10本あるじゃん!!」
ということで、コウモリダコは実はイカの仲間だということになりました。
そのことが判明した当初は、すでに「コウモリダコ」という和名がつけられていたので、和名は「コウモリダコ」のままなのだそうです。
つまりコウモリダコはイカの仲間なんだな…と思っていましたが、
最近の研究により、コウモリダコにはイカらしい特徴が全く無いという結果が出てきました!
最終的にコウモリダコはタコなのか、それともイカなのか?

コウモリダコは実際にはイカでもタコでもないダコ!
イカやタコが種として分化する前の姿を受け継いだ現生種であると考えられているんダコ。
だから生きた化石としても知られているんダコ!
この新たに発見された2つの細い腕は「フィラメント」と呼ばれており、これは足が進化したものだと考えられています。
コウモリダコはこのフィラメントと呼ばれる触糸の部分で獲物や敵の気配を感じ取り、ネバネバした粘液を分泌してマリンスノーをくっつけて食べるのです。
コウモリダコの発光器がすごい!
深海には発光する生物が多くいます。
「ムラサキカムリクラゲ」や「オオクチホシエソ」、「チョウチンアンコウ」などです。
生物発光には自らが発光に必要な物質を作り出す「自力発光」と、発光バクテリアを体内に住まわせることで発光する「共生発光」の2つがあり、深海生物の多くは自力発光タイプです。
深海生物が発光するのには、様々な理由があります。
①捕食者から自分の姿を隠すため
②エサの生物を誘って捕食しやすくするため
③捕食者から逃げるため
④仲間とコミュニケーションをとるため
コウモリダコの場合は自力発光タイプで捕食者から逃げるために発光します。
最近の研究でコウモリダコの発光器には3つのタイプがあることが明らかになりました。
第1の発光器官は生物発光ディスプレイです。

なんだかすごい名前だネ。
この生物発光ディスプレイは強力な光を発する発光器で、フラッシュのように明るく光り、2分以上も光っています。
その強烈な光ディスクは光り終わると強度、直径をしだいに弱めて小さくなっていきます。
第2の発光器官は8本の触手の先端に持っています。
この第1と第2の発光器官は同時に光り、鼓動するように閃きます。
8本の触手の先端は半透明で、虹色の緑・黄色の粒子の列があり、粘着性の発光液を分泌することができます。
普段は発光器官として光っていますが、必要な時には第3の発光器官である発光雲を発射することができます。

またまたすごい名前の必殺技が出てきたっス!
発光雲は粘液の中に埋め込まれている1000個以上の光りの粒子で、この光りの粒子はこれまでの観察結果から9分ほど光ることが報告されています。
捕食者に襲われそうになると8本の触手から一斉に発光雲が発射され、身体のサイズほどの発光雲が形づけられます。
いきなり発光雲を発射された捕食者は、「なんだこれは?」と発光雲に気を取られてしまいます。
その間にコウモリダコは最大のスピードでその場を逃げ出すのです。

に、忍者みたいでカッコいいっス!!
このような発光雲はコウモリダコ以外にも、チョウチンアンコウのルアーからも発せられることが確認されています。
コウモリダコの味は?食べられる?
マダコやミズダコなど、食用として出回っているタコたち。
そんなタコと同じようにコウモリダコも食べることができるのでしょうか?
調べてみましたがコウモリダコを食べてみたという人は見つからず、味についてもほとんど分かりませんでした。
私の個人的な憶測ですが、同じ深海に生息しているメンダコはアンモニア臭がひどく食用には向かないと言われているので、コウモリダコも同じく食用には向かないのではないか…と考えています。
足の部分もトゲトゲがあるし、ほとんど膜だし…
まず、見た目が美味しそうには見えないですよね(笑)
コウモリダコを食べてみたことがあるという方は、コメントでぜひ感想を聞かせてください!
コウモリダコを見られる水族館はある?
結論から言うと、現在日本で生きたコウモリダコを展示している水族館はありません。
コウモリダコは深海の生き物なので、生きたまま展示をすることはとても難しいです。
2006年に新江ノ島水族館にて生きたコウモリダコが展示されましたが、傷を負った状態であったため4日間のみの展示となりました。
しかし!コウモリダコの液浸標本は沼津港深海水族館にて展示されているそうです!
標本でもいいから本物のコウモリダコが見てみたいという方は、沼津港深海水族館へ行ってみてくださいね。
沼津港深海水族館~シーラカンス・ミュージアム~
【住所】
〒410-0845
静岡県沼津市千本港町83番地
【お問い合わせ】
電話:055-954-0606
FAX:055-954-0607
【公式HP】
http://www.numazu-deepsea.com/
コウモリダコの動画
コウモリダコが動いている様子を見たい!という人のためにコウモリダコの動画を集めてみました。
見れば見るほど、本当に不思議な生き物ですね。
まとめ
コウモリダコについてのお話はいかがでしたでしょうか?
コウモリダコは見た目は怖いけど、とても大人しい性格だということが分かりました。
また3つの発光器やイガイガボールのような姿になって身を守るなど、忍者のような技をたくさん持っているので知れば知るほど興味深い生物ですね。
他にもコウモリダコに関するいろいろな疑問や気になること、紹介してほしい深海生物などがいましたらお気軽にコメントしてくださいね。
これからも何か情報が入り次第、更新していきますのでよろしくお願いいたします。
最後までご閲覧いただきありがとうございました。